大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成7年(行コ)75号 判決 1996年11月27日

東京都大田区本羽田三丁目二四番二号

控訴人

大幸紙工株式会社

右代表者代表取締役

畝本政明

右訴訟代理人弁護士

物部康雄

東京都大田区蒲田本町二丁目一番二二号

被控訴人

蒲田税務署長 小池博

右指定代理人

前澤功

渡辺進

佐久間康良

羽柴宗一

主文

一  原判決主文三項を次のとおり変更する。

1  被控訴人が昭和六三年九月三〇日付で控訴人に対してした次の各処分を次の各限度で取り消す。

(一)  合併前の大幸紙工株式会社に係る昭和五八年三月一日から昭和五九年二月二九日までの事業年度分の法人税の更正及び重加算税賦課決定のうち所得金額を二六〇五万二〇五一円として計算した額を超える部分

(二)  合併前の大幸紙工株式会社に係る昭和六〇年三月一日から昭和六一年二月二八日までの事業年度分の法人税の更正及び重加算税賦課決定のうち所得金額を六三五一万五九五九円として計算した額を超える部分

(三)  合併前の大幸紙工株式会社に係る昭和五八年七月から同年一二月までの期間の源泉所得税の納税告知及び不納付加算税賦課決定(但し一部取消後のもの)のうち賞与支給額を本判決別表2の該当期間の「賞与支給金額」欄に記載の金額として計算した額を超える部分

(四)  合併前の大幸紙工株式会社に係る昭和五九年一月から同年六月までの期間の源泉所得税の納税告知及び不納付加算税・重加算税の賦課決定のうち賞与支給額を本判決別表2の該当期間の「賞与支給金額」欄に記載の金額として計算した額を超える部分

(五)  合併前の大幸紙工株式会社に係る昭和五九年七月から同年一二月までの期間の源泉所得税の納税告知及び不納付加算税・重加算税の賦課決定(但し一部取消後のもの)のうち賞与支給額を本判決別表2の該当期間の「賞与支給金額」欄に記載の金額として計算した額を超える部分

(六)  合併前の大幸紙工株式会社に係る昭和六〇年一月から同年六月までの期間の源泉所得税の納税告知及び不納付加算税・重加算税の賦課決定のうち賞与支給額を本判決別表2の該当期間の「賞与支給金額」欄に記載の金額として計算した額を超える部分

2  控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。

二  控訴人のその余の控訴を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを一〇分し、その九を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が昭和六三年九月三〇日付で控訴人に対してした次の各処分を取り消す。

(一) 合併前の大幸紙工株式会社に係る昭和五八年三月一日から昭和五九年二月二九日までの事業年度分(以下「五九年二月期分」という。)の法人税の更正のうち所得金額二一七八万〇五一〇円、税額八〇六万三六〇〇円を超える部分及び重加算税賦課決定のうち右超過税額に係る部分

(二) 合併前の大幸紙工株式会社に係る昭和五九年三月一日から昭和六〇年二月二八日までの事業年度分(以下「六〇年二月期分」という。)の法人税の更正のうち所得金額四一七九万六二六六円、税額一七〇二万六七六三円を超える部分及び重加算税賦課決定のうち右超過税額に係る部分

(三) 合併前の大幸紙工株式会社に係る昭和六〇年三月一日から昭和六一年二月二八日までの事業年度分(以下「六一年二月期分」という。)の法人税の更正のうち所得金額五七八六万〇八四〇円、税額二四〇〇万二九六〇円を超える部分及び重加算税賦課決定のうち右超過税額に係る部分

(四) 合併前の大幸紙工株式会社に係る昭和五八年七月から同年一二月までの期間に係る源泉所得税の納税告知及び不納付加算税賦課決定、昭和五九年一月から同年六月まで、同年七月から同年一二月まで、昭和六〇年一月から同年六月までの各期間に係る源泉所得税の納税告知及び不納付加算税・重加算税の賦課決定、昭和六〇年七月から同年一二月までの期間に係る源泉所得税の納税告知及び不納付加算税賦課決定

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

本件控訴を棄却する。

第二当事者の主張

次のとおり当審における主張を付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。なお、右引用中に単に「別表」とあるのは、いずれも原判決の別表をいうものである。

一  控訴人の主張

1  原審の主張の訂正

必要経費の内訳に関する原判決別表8を本判決別表4の「再訂正訴状別表(一)」のとおり訂正し、給与の支払額に関する原判決別表9を本判決別表5の「給与賃金」のとおり訂正する。右訂正中主な点は次のとおりである。

(一) 給与賃金(原判決三〇ページの「3 給与賃金」関係)

水上貞子に関する原審での主張をすべて撤回する。畝本清志、井上淳及び大場紳子に対する各月の支払額に関する原審での主張(原判決別表9)を本判決別表5のとおり訂正する。したがって、給与賃金の合計金額は本判決別表4の「給与賃金」欄に記載のとおりとなる。

(二) 家賃(原判決三〇ないし三一ページの「4 家賃」関係)

五九年二月期分の原審での主張額四〇万円を二四〇万円に増額して主張する。

(三) 光熱費及び水道料金(原判決三一ページの「5 水道光熱費」関係)

光熱費については被控訴人主張の金額を認めることとするが、右金額は電気料金及び電話料金に過ぎない。「三幸化学」の製造事業には大量の水を必要とし、その料金は毎月二〇〇〇円程度であった。したがって、各期の水道料金は、本判決別表4の「水道代」欄に記載のとおりとなる。

2  経費の追加主張(機械設備の賃料)

被控訴人は、「三幸化学」の本件事業が大幸紙工の事業の一部に該当すると認定して本件各処分を行いながら、「三幸化学」の本件事業の用に供された機械設備についてはこれが大幸紙工から畝本に支払われた仕入代金により取得されたものであることを認めず、ひいては、右機械設備は大幸紙工の所有ではなく畝本個人の所有であったと主張するようである。そうすると、仮に右主張のとおりであれば、大幸紙工は、畝本所有の機械設備を使用して本件事業を営んでいたのであるから、畝本に対し当然に右機械設備の賃料を支払うべき立場にあった。ところで、右機械設備の内訳は本判決別表6の「機器リース料金表」に記載のとおりであり、その賃料相当額も右別表に記載のとおりである(各機械等の取得価格(原判決別表12に記載のとおりである。)とその減価償却期間を考慮して、税法上の償却期間一二年の機械等については購入価格の二〇パーセント、同五年の機械等についてはその二五パーセント、同二年の機械等についてはその五〇パーセントを各年間の賃料とした。)。そして、右賃料は大幸紙工の経費に該当するから、右経費はその益金から控除されるべきである。

3  認定賞与について

被控訴人は「三幸化学」の本件事業を大幸紙工の事業の一部と認定しているのであるから、そうだとすると、大幸紙工から「三幸化学」に仕入代金の支払がなされても、当然にはこれが大幸紙工の社外に流出することはなく、依然として大幸紙工の資産たる性格を失わないはずである。したがって、右代金中、畝本個人が実際に消費したと認められる部分かあるいは使途が不明な部分(具体的には、支払額から経費を控除した残額から更に前記機械設備購入費及び原審で主張した貸付金に供された金額並びに貸金庫中の残存現金を控除した残額)についてのみ、畝本に実質的に賞与として支給されたと判断される場合があり得るに過ぎない。ところが、被控訴人は、結局のところ、「三幸化学」の本件事業に係る資金を畝本が支配管理していたことだけを根拠として本件の認定賞与の判断をしているのであって、到底正当な判断ということはできない(大幸紙工から「三幸化学」に支払われた仕入代金は、畝本がこれを支配していたとしても、せいぜい同人に対する仮払金や貸付金と認定されるべきものであったと考えられる。そして、前記機械設備との関係では、これらは右仮払金または貸付金により購入されたものであるか、ひとまず畝本個人が大幸紙工のために購入代金を立て替えて取得し、右仮払金または貸付金により立替金の弁済がなされたと見ることができる。)。

二  被控訴人の主張

1  控訴人の主張1のうち、被控訴人主張の光熱費が電気料金及び電話料金であることは認める。そのほかの点は、原審で認否反論したとおりである。但し、オイル代中、昭和六〇年一月及び同年二月に美州興産にオイル代合計一七万八六〇〇円が支払われたこと及びこれが控訴人の経費に該当することは認める旨、答弁を改める。

2  同2は争う。控訴人が「三幸化学」の本件事業のため控訴人主張のとおり機械設備を購入したことを客観的な資料で確認することはできないから、被控訴人としては、その存在自体を認めることはできない。

3  同3は争う。右2のとおり、控訴人主張の機械設備を購入したことを確認することはできない。また、仮に控訴人の主張する機械等が存在したとしても、その取得に要した資金の出所は明らかにされていないから、本件認定賞与の額にはなんら影響を及ぼすものではない。ところで、控訴人は、本件事業に係る機械装置等を、本件事業開始後の昭和六〇年一二月一日に控訴人の資産勘定に計上し、その際控訴人から畝本に一九五〇万円を支払った旨の経理処理をしている。そうすると、そもそも本件事業開始後の機械装置等の購入代金は本件事業に係る利益金から支払われたものではない上(畝本は、本件の税務調査当時、大和田調査官に対し、本件事業を始めるときに借入をし、自己資金を含め一一〇〇万円を出資したと答弁していた。)、本件利益金とは別個に清算されているのであるから、本件事業に係る利益金とはまったく関係がないというべきである。

第三証拠関係

原審及び当審記録中の証拠関係目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

当裁判所は、控訴人の本件訴えのうち原判決主文一項及び二項記載の部分は不適法であり、その余の訴えに係る請求は、本判決主文一項1に記載の限度で理由があり、その余は理由がないと判断する。その理由は、以下のとおりである。なお、後記原判決の引用部分中単に「別表」とあるのは、いずれも原判決の別表をいうものである。

第一課税処分等の経緯

請求原因1ないし4の事実は、当事者間に争いがない。そして、成立に争いのない乙第一号証と弁論の全趣旨によれば、源泉所得税に関する本件課税処分の内容は本判決別表3に記載のとおりであること並びに後記引用に係る原判決理由説示第四の一(原判決五五ページ九行目から五六ページ八行目まで)に記載の一部取消後の右処分の内容は原判決別表7のうち昭和五八年七月分から同年一二月分までの期間及び昭和五九年七月分から同年一二月分までの期間に関する部分のとおりであることを認めることができる。

第二法人税の更正について

以下のとおり訂正、付加するほか、原判決三五ページ五行目から同五四ページ一〇行目までの理由説示を引用する。

一  原判決三八ページ一行目の「光熱費」の次に、「(但し、電気料金及び電話料金をいうものであることは当事者間に争いがない。)」を加える。

二  同四〇ページ一一行目の末尾に続けて、「なお、証人畝本清志の証言中にも原材料の仕入について述べる部分があるが、以上の認定判断を左右するに足りるものではない。」を加える。

三  同四一ページ一行目の冒頭から四五ページ七行目の末尾までを、次のとおり改める。

「3 給与賃金について

(一)  給与賃金に関する控訴人の主張は、本件事業のため、畝本清志を昭和五八年三月から昭和六〇年一月まで雇用し、その間同人に一か月二五万円(但し毎年七月及び一二月には二〇万円ボーナスを加給)の給与を支払い、畝本清志が退職した後は昭和六〇年二月から同一一月まで井上淳を雇用し、その間同人に一か月二五万円(但し七月には二五万円のボーナスを加給)の給与を支払い、また、昭和六〇年四月から同年一一月までの間は井上淳のほかに大場紳子を雇用し、その間同人に一か月六万円の給与を支払ったというものである。

(二)(1)  そこで、まず、畝本清志について検討するに、成立に争いのない甲第二七号証、第二八号証、控訴人代表者本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる同第一三号証、証人畝本清志の証言により真正に成立したものと認められる同第二二号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる同第二三号証、第二九号証、右証言及び本人尋問の結果によれば、畝本清志は畝本の甥であるところ、昭和五八年三月に高等学校を卒業するとともに遅くともその翌月から「三幸化学」に雇用されて(アルバイトの従業員)本件事業に従事したが、香川栄養専門学校に入学するため(昭和六〇年四月に同学校に入学した。)、昭和六〇年一月で辞めたことを認定することができる。

(2) もっとも、前掲甲第一三号証、証人畝本清志の証言及び控訴人代表者本人尋問の結果と本件の記録によれば、畝本清志は、平成三年五月ころ、畝本の依頼により、本件事業に従事していた期間を支払を受けた給与の額を証明するための書面を作成し、これが甲第三号証の一として提出されていること及び右書面には右の従業期間が昭和五八年二月末日から同五九年一月末日までとされていることを認めることができる。しかし、前掲甲第二二号証及び証人畝本清志の証言によれば、右書面は、井上淳が昭和五九年二月に「三幸化学」に雇用されたことを前提として畝本清志の記憶を思い起こした結果を記載したものであると認めることができるところ、後記のとおり井上淳は昭和六〇年二月に「三幸化学」に雇用されたと認定するのが相当であり、このことと、平成三年から見ると昭和五八年ころは必ずしも正確な記憶を保ち得るほど近い過去ということはできないこと、畝本清志が高等学校卒業後前記専門学校に入学するまでの間他に就職した形跡がないこと、なお、前掲甲第二九号証及び乙第一号証によれば「三幸化学」の仕事は三名程度の従業員がいても不自然ではないと認められることに照らすと、前記雇用期間の訂正に関する経緯は前記(1)の証拠の信憑性を判断するについてあまり重視するのは相当でなく、前記(1)の認定を覆すに足りないものというのが相当である。そのほかに右認定を覆すに足りる証拠はない。

(3) 次に、畝本清志の従業中の給与について検討するに、同人に対し控訴人主張のとおり毎月二五万円程度の給与が支給されていたことについては、これを的確に認定するに足りる証拠はない。特に、前掲甲第二八号証、第二九号証、原本の存在、成立ともに争いのない乙第九号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる同第四号証、証人畝本清志の証言、控訴人代表者本人尋問の結果と弁論の全趣旨によれば、畝本は、昭和六〇年一二月一日付で「三幸化学」の本件事業のための機械設備等を一九五〇万円で大幸紙工に譲渡する経理処理をし、同日以後は「三幸化学」の事業は大幸紙工の名で大幸紙工の事業として継続されたこと、ところで、畝本清志は、前記専門学校を昭和六一年三月に卒業したが、同年二月の中途から大幸紙工に雇用されたこと、その後の同人の給与は、稼働日数に応じた額の基本給(日額八〇〇〇円)に諸手当を加算したものであったが、その支給額は、昭和六一年二月分が一万六〇〇〇円、同年三月分が二〇万三〇〇〇円、同年四月分が二三万五〇〇〇円、同年五月分が一六万三〇〇〇円、同年六月分が二二万七〇〇〇円、同年七月分が二三万五〇〇〇円、同年八月分が一五万五五〇〇円、同年九月分が一七万七〇〇〇円、同年一〇月分が二二万〇二五〇円、同年一一月分が二二万六〇〇〇円、同年一二月分が二二万七〇〇〇円、昭和六二年一月分が一七万一〇〇〇円であったことを認めることができるから、右の給与額に照らすと、畝本清志が「三幸化学」に雇用されていた当時に控訴人主張のように毎月二五万円程度を支給されていたとは認めがたいといわざるを得ない。そして、以上によれば、控えめに見て、同人の「三幸化学」当時の給与額は昭和五八年四月以降(同年三月は高校在学中であるから、認めがたい。)一か月一五万円程度であったと認めるのが相当である。なお、右の当時に同人にボーナスが支給されていたことを認定するに足りる的確な証拠はない。

そうすると、昭和五八年四月から昭和五九年二月までの支給給与額は合計一六五万円、昭和五九年三月から昭和六〇年一月までの支給給与額は同様に合計一六五万円になる。

(三)(1)  次に、井上淳について検討するに、前掲甲第一三号証、第二三号証、第二九号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第三号証の一、証人畝本清志の証言及び控訴人代表者本人尋問の結果によれば、井上淳は、昭和五九年七月から同年一二月まで有限会社長栄製作所に勤務していたが、長栄製作所を退職後、昭和六〇年二月に「三幸化学」に雇用され畝本清志の仕事を引き継いだこと、そして、井上淳は、その後前記のように昭和六〇年一二月一日に「三幸化学」の本件事業が名義上も大幸紙工に引き継がれた後も、引き続き大幸紙工に雇用されて同じ仕事に従事していたことを認定することができる。

(2) もっとも、前掲甲第一三号証及び控訴人代表者本人尋問の結果と本件の記録によれば、井上淳も平成三年五月ころ畝本の依頼により「三幸化学」の本件事業に従事していた期間と支払を受けた給与の額を証明するための書面を作成し、これが甲第三号証の二として提出されていること及び右書面には昭和五九年二月から「三幸化学」に雇用された旨記載されていることを認めることができる。しかし、前掲甲第二三号証により、井上淳は、その後右の記載は誤りでありその原因は長栄製作所の退職時期を実際より一年早いものと記憶していたためである旨説明しているところ、畝本清志に関して判示したのと同様の事情(相当古い過去のことで、記憶だけに基づくものであること、「三幸化学」の本件事業に就き得る人数、井上淳にも右期間そのほかに就労した形跡がないこと等)のほか、前掲乙第一号証及び成立に争いのない乙第三号証の二によれば、井上淳は昭和二一年生まれであるから昭和六〇年当時三九歳くらいであったところ、本件審査段階までに、初心化学の代表者磯辺宏男は、本件事業が「三幸化学」名により営業されていたときにもその従業員の中に井上という名の若い男性がいた旨申述していたことを認めることができ、右の井上が井上淳に該当すると見ても不自然ではないことに照らすと、右の訂正の経緯もそれほど重視するのは相当でなく、前記(1)の認定を覆すに足りないというべきである。そして、そのほかに右認定を覆すに足りる証拠はない。

(3) そこで、井上淳の給与について検討するに、同人が控訴人主張のとおりの給与を支給されていたことを的確に認定するに足りる証拠はない。しかし、前掲乙第九号証によれば、井上淳が大幸紙工に雇用されるようになった後の給与額は、畝本清志と同様の計算のもとに、昭和六一年一月分は二二万八〇〇〇円、同年二月分は二八万三一二五円、同年三月分は二六万四〇〇〇円、同年四月分は三〇万四二〇〇円、同年五月分は二三万一二二五円、同年六月分は二九万二九五〇円、同年七月分は二六万八六〇〇円、同年八月分は二三万一八二五円、同年九月分は二三万五五〇〇円、同年一〇月分は二五万六一五〇円、同年一一月分は二七万九九〇〇円、同年一二月分は三〇万四八七五円であったことを認めることができるから、これによれば、控えめに見て、同人の「三幸化学」当時の給与額は一か月二二万円程度であったと認めるのが相当である。なお、右の当時に同人にボーナスが支給されていたことを認めるに足りる的確な証拠はない。

そうすると、昭和六〇年二月の支給給与額は二二万円、昭和六〇年三月から同年一一月までの支給給与額は合計一九八万円になる。

(四)  次に、大場紳子について検討するに、前掲甲第一三号証、控訴人代表者本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第三号証の四、証人畝本清志の証言及び右本人尋問の結果によれば、大場紳子は、昭和六〇年四月から同年一一月まで「三幸化学」のパートタイム従業員として勤務し、その間平均して一か月六万円(合計四八万円)の給与を支給されていたことを認めるのが相当であり、右認定を覆すに足りる証拠はない。」

四  同四五ページ一一行目の「いなかったというのであるから、」を、「いなかったというのであって、右本人尋問の結果と弁論の全趣旨によれば、本件建物が藤江の所有するものであったとしても、その使用関係は藤江から無償使用の許諾を受けた使用貸借関係であったと認めることができるから、」と改める。

五  同四六ページ二行目の冒頭から九行目の末尾までを、次のとおり改める。

「5 水道光熱費等について

(一)  「三幸化学」の本件事業のため被控訴人が原判決別表3の「光熱費認容」欄で主張する金額の電気料金及び電話料金を必要としたことは、当事者間に争いがない。

(二)  また、前掲甲第一三号証、控訴人代表者本人尋問の結果と弁論の全趣旨によれば、「三幸化学」の本件事業には相当多量の水道水を必要としたところ、右水道料金は一か月二〇〇〇円程度であったことを認めることができる。そうすると、五九年二月期及び六〇年二月期の水道料金は控訴人主張の金額(順次二万一〇〇〇円及び二万四〇〇〇円)を下回るものではなく、また、六一年二月期(昭和六〇年一一月まで)の水道料金は九か月分の一万八〇〇〇円になる。」

六  同四六ページ一〇行目の冒頭から四七ページ四行目の末尾までを、次のとおり改める。

「6 保安料について

前掲甲第一三号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる同第二四号証及び控訴人代表者本人尋問の結果によれば、「三幸化学」の本件事業のため、昭和五八年一〇月から自家用電気工作物の運用等に関する保安の監督に係る業務が社団法人東京電気管理技術者協会所属の電気管理技術者である瀧澤永次に委託されたこと、同人は、昭和五八年一〇月から毎月一回「三幸化学」の工場に赴いて電気工作物の巡視点検をしたが、その費用は一回当たり一万円程度で「三幸化学」がこれを支払っていたことを認めることができるから、五九年二月期分の合計五万円、六〇年二月期分の合計一二万円及び六一年二月期分(昭和六〇年一一月まで)の合計九万円は、右各事業年度の大幸紙工の所得金額の計算上損金に算入されるべきである。」

七  同四七ページ五行目の冒頭から四八ページ八行目の末尾までを削除する。

八  同四八ページ九行目の冒頭から四九ページ七行目の末尾までを、次のとおり改める。

「7 修繕費及びオイル代について

前掲甲第一三号証、控訴人代表者本人尋問の結果及びこれにより原本の存在、成立ともに認められる同第七号証、第八号証の一、二、第九号証によれば、畝本は、本件事業に必要な機械の修理や部品購入のため、昭和五九年四月に八万円、同年九月に一万五一〇〇円、同年一〇月に一万七〇〇〇円、同年一二月に二三万九九〇〇円、昭和六〇年一月に一〇万〇二〇〇円、同年三月に三万八八〇〇円、同年五月に三万五八〇〇円の各代金をニイガタ・マシン・サービス株式会社、川口鉄工株式会社及び有限会社岡元電設に支払ったほか、本件事業に必要な機械を稼働させるために必要な油を美州興産から購入し、昭和六〇年一月に一〇万円、同年二月に七万八六〇〇円を支払ったことを認めることができるから、六〇年二月期分の合計六三万〇八〇〇円、六一年二月期分の合計七万四六〇〇円は、それら事業年度分の大幸紙工の所得金額の計算上損金に算入されるべきである。なお、右認定の油の費用については、被控訴人も認めるところである。」

九  同四九ページ八行目冒頭の「9」及び五一ページ三行目冒頭の「10」を、順次「8」及び「9」と改める。

一〇  同五一ページ七行目の次に、改行して、次のとおり加える。

「10 利子割引料について

弁論の全趣旨によれば、控訴人が本判決別表4で主張している利子割引料は、益金から除かれるべきことに争いのない受取利息(抗弁1の(五))と同じものであることが明らかであるから、損金として重ねて控除することはできない。

11 機械設備の賃料について

弁論の全趣旨によれば、「三幸化学」の本件事業に用いられた機械設備については控訴人はまったく賃料を支払っていないことが明らかであり、また控訴人が右機械設備について賃料その他の使用料を支払う債務を負担していた関係にあることを認めるに足りる証拠もない。したがって、機械設備の賃料に関する控訴人の主張は、採用することができない。」

一一  同五一ページ八行目の冒頭から同五四ページ一〇行目の末尾までを、次のとおり改める。

「三 本件各更正の適法性について

1  五九年二月期分更正

当事者間に争いのない本判決別表1の1欄記載の申告所得金額に同表の2及び3欄記載の金額の合計額である同表5欄記載の金額を加え、これから同表の6、7及び9ないし12欄記載の金額の合計額である同表15欄記載の金額を差し引いて計算される五九年二月期分の大幸紙工の所得金額は二六〇五万二〇五一円である。そうすると、所得金額を二七四三万七〇五一円とし右所得金額に基づき法人税額を計算した五九年二月期分更正のうち前記認定の所得金額により計算した額を超える部分は、所得を過大に認定してなされたもので違法であるから、取り消されるべきである。

2  六〇年二月期分更正

右1による一部取消後の五九年二月期分更正に係る所得金額に基づいて賦課されることが予想される大幸紙工の六〇年二月期分の未納事業税は、計算上二六六万七六〇〇円であるところ、右未納事業税額は六〇年二月期分の所得の計算上損金に算入されるものである(被控訴人は、原審第三回口頭弁論期日で陳述された平成五年一一月五日付準備書面において六〇年二月期分の更正に係る事業税認定損を二八五万〇四〇〇円と主張しており、右金額の算出自体については控訴人は特段の問題があることを指摘していない。そして、五九年二月期の確定申告に係る所得金額(五八八万五六八三円)及び五九年二月期分の更正に係る所得金額(二七四三万七〇五一円)をもとにすると、五九年二月期の確定申告においては地方税法七二条の二二第一項所定の標準税率により事業税額(端数調整前)が四二万四六五〇円と計算され、他方右更正においては同条の二二第八項による標準税率の各一・一倍の税率(昭和六三年条例二七号による改正前の東京都都税条例二七条)により事業税認定損が算出されていたものとすると右更正に係る事業税認定損の金額になる。したがって、五九年二月期の確定申告に係る事業税額(端数調整前)は右四二万四六五〇円であったと認めることができるから、これをもとに前記認定の一部取消後の五九年二月期分更正に係る所得税額(二六〇五万二〇五一円)に基づいて賦課されることが予想される大幸紙工の六〇年二月期分の未納事業税額を計算すると、前記二六六万七六〇〇円になる)。そこで、当事者間に争いがない本判決別表1の1欄記載の申告所得額に同表の2及び3欄記載の金額の合計額である同表5欄記載の金額を加え、これから同表の6ないし14欄記載の金額の合計額である同表の15欄記載の金額を差し引くと、六〇年二月期分の大幸紙工の所得金額は五〇五七万一一二五円となる。したがって、所得金額を四九〇五万四〇〇六円とする六〇年二月期分更正には、所得を過大に認定した違法はなく、その法人税額も適法に計算された金額と認めることができる。

3  六一年二月期分更正

六〇年二月期分更正に係る所得金額に基づいて賦課されることが予想される大幸紙工の六一年二月期分の未納事業税は、六〇年二月期分確定申告に係る所得金額(一三一二万五一八〇円)と同期分更正額(四九〇五万四〇〇六円)をもとに計算すると四七四万二六〇〇円であるところ、右未納事業税額は六一年二月期分の所得の計算上損金に算入されるべきものである。そこで、当事者間に争いがない本判決別表1の1欄記載の申告所得額に同表の2ないし4欄記載の金額の合計額である同表5欄記載の金額を加え、これから同表の6ないし14欄記載の金額の合計額である同表の15欄記載の金額を差し引くと、六一年二月期分の大幸紙工の所得金額は六三五一万五九五九円となる。したがって、所得金額を六三七四万八二〇七円とし右所得金額に基づき法人税額を計算した六一年二月期分更正のうち前記認定の所得金額により計算 した額を超える部分は、所得を過大に認定してなされたもので違法であるから、取り消されるべきである。」

第三本件各更正に係る重加算税賦課決定について

右第一および第二の認定判断によれば、大幸紙工は、「三幸化学」の名称を使用して本件事業を行い、自己の製造に係る三幸製品につき仕入を仮装し、右仕入代金を損金の額に算入して、係争各事業年度分の法人税を申告したのであるから、右のように仮装した事実に係る所得金額を課税標準として新たに納付すべき法人税額については、重加算税を賦課する対象となるといわざるを得ない。そして、前記のとおり六〇年二月期分の更正は適法であり、右事業年度分の大幸紙工の法人税に係る重加算税賦課決定は、適法に算出された重加算税を賦課するものと認めることができる。しかし、五九年二月期分及び六一年二月期分の各更正は、前記認定のとおり所得金額を過大に認定した点で一部違法であり、右各事業年度分の法人税に係る重加算税賦課決定は、右認定の所得金額により計算した額を超える部分は違法であるから、取り消されるべきである。

第四源泉所得税に関する課税処分について

以下のとおり訂正、付加するほか、原判決五五ページ九行目から同六七ページ五行目までの理由説示を引用する。

一  原判決五八ページ六行目の「記載の費用」の次に、「並びに前記認定の給与(昭和五八年七月から昭和六〇年一月まで毎月一五万円、昭和六〇年二月及び三月は毎月二二万円、昭和六〇年四月から同年一一月までは毎月二八万円)、水道料金(毎月二〇〇〇円)、保安料(昭和五八年一〇月から昭和六〇年一一月まで毎月一万円)、修繕費(内訳は前記認定のとおり)及びオイル代(昭和六〇年一月に一〇万円、同年二月に七万八六〇〇円)の支払」を加える。

二  同六〇ページ八行目の「甲第二一号証」の次に、「及び第二六号証」を加える。

三  同六二ページ一一行目の末尾に続けて、次のとおり加える。

「なお、仮に控訴人主張の時期に控訴人主張の右機械等が購入され本件事業の用に供されたとしても、まず、控訴人主張の右時期のうち本件事業開始当時に購入されたものは、本件事業の利益金を購入資金として購入されたものでないことが明らかである。そして、その後の時期に購入したと主張されている機械等については、仮に本件事業の利益金から購入されたとしても、これらが右購入と同時に控訴人に帰属する機械等になったものと認めるに足りる的確な証拠もないといわざるを得ない。かえって、控訴人主張の機械等は、原材料等の消耗品と異なり取得後独自の価値を有する資産となるものであるが、控訴人は、前記のとおり、昭和六〇年一二月一日にこれらの機械一式等を一九五〇万円の対価で「三幸化学」から取得し右対価を支払った経理処理をしていることを認定することができるから、これらの事実と当事者間に争いのない抗弁1(一)の(1)ないし(3)の事実に鑑みると、控訴人主張の機械等のうちに本件事業の利益金により購入されたものがあるとしても、右機械等は、畝本個人に帰属しこれを「三幸化学」の本件事業の用に提供していたものと認めるほかない。したがって、仮に右機械等の購入代金のうちに本件事業の利益金から支出されたものがあったとしても、それだけでは、右利益金が控訴人の資産形成に用いられたことにはならないのである。」

四  同六四ページ三行目の「五七年」を「五八年」と改める。

五  同六四ページ七行目の「受取利息」の次に「その他前記認定の給与、水道料金、保安料、修繕費、オイル代」を加える。

六  同六五ページ三行目の冒頭から同四行目の末尾までを、次のとおり改める。

「受取利息(原判決別表4ないし6の各<4>欄記載の金額)その他前記認定の給与等を差し引いた残額であり、その金額は、本判決別表2の「賞与支給金額」欄記載のとおりとなる(原判決別表7の「支給金額」欄記載の金額から更に右給与等の額を控除した残額である。)。」

七  同六五ページ一〇行目の冒頭から同六六ページ一行目の末尾までを、次のとおり改める。

「そして、右各期間の認定賞与の額は、本判決別表2の「賞与支給金額」欄の各「小計」欄に記載のとおりである。そうすると、本件各源泉所得税の告知処分(一部取消後のもの)のうち、昭和六〇年七月から同年一二月までの期間に係るものは右認定の額を超えない認定賞与についてなされたものであって適法であるが、その余の各期間に係るものは、いずれも認定賞与の額を過大に認定してなされたことになるから、右超過部分については取消しを免れない。(なお、取消後の源泉所得税額の計算においては、前記認定に係る従業員給与も計算の基礎となる。)

八  同六七ページ三行目の「窺われ」から同五行目の末尾までを次のとおり改める。

「窺われる。そして、右の計算手法は相当であるが、前記のとおり認定賞与額に関する被控訴人の認定はその一部が過大であるから、右各賦課処分のうち、前記認定の認定賞与額を超過する認定賞与が存在することに基づき右超過部分について右の計算手法でなされた部分は、取消しを免れないというべきである。」

第五結論

以上の次第で、本件訴えのうち、昭和五八年七月から昭和六〇年一二月までの間の源泉所得税に関する課税処分のうち、一部取り消された部分の取消を請求する部分は不適法であるから却下すべきであるが、その余の源泉所得税に関する課税処分及び係争各事業年度の法人税に関する課税処分の取消を求める請求は、主文一項1記載の限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却するべきである。よって、原判決中これと異なる部分(主文三項)を右の趣旨に変更することとし、その余の控訴は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行訴法七条、民訴法九六条、八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 丹宗朝子 裁判官 加藤英継 裁判官 北澤章功)

【別表1】 所得金額計算表

<省略>

【別表2】

認定賞与金額計算表

<省略>

【別表3】

<省略>

【別表4】

再訂正訴状別表(一)

<省略>

【別表5】(1/2)

給与賃金

<省略>

【別表5】(2/2)

<省略>

【別表6】

機器リース料金表

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例